カテゴリー: 楽曲世界観

向かい風

数年ぶりに自転車にまたがって、もう30分くらいは走ったかも。そろそろ気力がなくなってきたね。
3月中旬のこの季節、春めいてきたといえばそうだけどまだ十分冷たい風が吹き抜けてくる、そんな午後。
ただ黙々とペダルを漕ぎ続けて足元がブルブル震え始めてきた。もちろん健康のためにサイクリングしてるわけじゃないからね、それなりに目的があって自転車に乗ってるんだよ。
あぁ、だから日頃からメンテナンスも何もあったもんじゃないからさ、サドルもギシギシ変な音を立て始めてきたよ。
春一番っていうの?なんか知らないけどほこりっぽい風がぶんぶん吹いてくる…。目がね、痛いよ。
花粉症じゃないし、もちろん哀しいわけではないけど涙が溢れてくる。
これ、端から見たら誤解されるかな、いや誰も気にしてないだろうけどね。
あ、また一段と強い風が吹いてきた。
向かい風…
なんだかオレが進みたい方向から向かい風が吹いてきて、オレの邪魔をしてきているみたいじゃん。
そもそもなんでオレが普段乗らない自転車に乗ってわざわざこの向かい風の中を走っているんだろう。
そう…あの人に会うため…いや、会うつもりはないけどね…でもかつてよく待ち合わせの場所に使ってたあの街のあの駅に行けば、今のオレは何かわかるんじゃないか、ってそう思ったんだ。
だけど自動車で30分走ればすぐに着くわけだけど、そうじゃないんだよ。
早く行きたいわけじゃない、いやむしろ行きたいわけじゃない、行きたくないかも…。
向かい風に邪魔されながら、行く手を阻まれながら、しぶしぶ行きたいんだよ。
それよりも行くのを断念するための理由が欲しいだけかも。
だって風が強すぎるからさ、行こうと思ったんだけどそりゃ無理でしょ、ってな感じでね。
自分でもなんとなく無様なのかな、わかってるよ。
はっきりすれば?ホントは喜びいさんで行きたいんじゃないの?なんて…
だからさ、この向かい風はオレをあざけり笑ってるんじゃないか、って思えるんだよ。

あの頃、オレはかなり調子に乗ってたんだと思う。だってオレは何も悪くない、これこそがオレのやり方で生き方なんだってさ。
時代が、って言うと大げさだけどその時の流れは間違いなく追い風だった。
前に進もうと思えば思うほど前に進んだし、立ち止まろうとしてても勝手に前へ前へ押し出されてさ。
誰もオレに何も言わなかった、言えなかった。
オレが間違ってる?そんなわけないでしょ、そんなこと言える人はどこにもいなかった。
だから思うんだ、追い風ってそんなにいいものなの?
みんないなくなってしまった…みんな離れていった…
オレのせい?追い風のせい?
追い風が聞いたら笑うだろう…
追い風が言うよ。どこに向かうかなどは知ったこっちゃない。
ただ背中を押してやるからさ、ほら進みな、ってね。

もうどれくらい自転車こぎ続けてるんだろう。
あの日、あのとき約束してた場所はまだまだ遠い。
自分にむち打って自転車漕いで、形だけでも反省してるつもりなのか。
勝手のいい話なんだと思うけど…
オレはそれでもいろんなことを考えながら、ずっとペダルを漕ぎ続けるつもりだよ。
やがてはたどりつけると信じてる。
一漕ぎごとに前に進んでるからね。
追い風と向かい風がこれからもきっと交互にやってくることだろう。
サドルが尻に食い込んできて痛くなってきたけど…
まっすぐに西へ向かって進もう。

まだ今は春になる前のときどき寒風が吹く3月中旬。
そのうちね、そのうち約束の場所にも着くだろうし、ホントの春にもなるだろうね。

(BGM 向かい風 by A’KILLER)